INTERVIEW

Journey of a Songwriter 旅するソングライター OFFICIAL INTERVIEW (インタビュー・文:古矢徹)

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 2005年に発表された前作『My First Love』から10年、リスナー待望、しかし本人はほんの1年ほど前まで「2020年の東京オリンピックまでには出来るんじゃない?(笑)」と冗談めかしていた、浜田省吾のオリジナル・ニュー・アルバム『Journey of a Songwriter 〜 旅するソングライター』が完成した。
 感想をひと言でいうなら、「新鮮」。1曲目「光の糸」のイントロが鳴り始めた瞬間、そこに浜田省吾の歌の新しい風景が広がる。通常のエイトビートとははっきり異なるアクセントで、頭の中の固定観念をときほぐしてくれるようなドラム。そしてなにより、そこで歌われている言葉の新鮮な響き。
 たとえば、“友よ”という呼びかけ。“友達”や“友”はこれまでの作品にも登場するが、おそらくソロデビュー以来、浜田省吾が“友よ”と歌ったことはなかったはずだ。
 なぜ浜田省吾は今、そう歌うのか。本人は「自然に出てきた言葉」と語るが、アルバムタイトル“旅するソングライター”にも表れている潔いほどの軽やかさと、その対極にある“友よ”の重み。この両極端の世界がアルバム全体に、いや1曲ずつの中にも共存していることが、新鮮さの理由かもしれない。

 10年ぶりの新作『Journey of a Songwriter 〜 旅するソングライター』。曲作りについては、本人が客観的な視線で記した“創作ノート”にこうある。

「歌を作ることは歌詞を書くことだ」と常に言ってきました。
しかし、歌を作る時に常に優先するのは音楽そのものです。

2005年に発表された『My First Love』のタイトルは
“My First Love is Rock 'n' Roll”という一行に導かれます。
このアルバムのタイトル・ソングの中にこのような歌詞の一節があります。
“アメリカ生まれの Rock 'n' Rollやっているオレは誰だ…? 自分を探した「J.Boy」”
かつて若き日々、ソングライターは自分にそう問いかけていました。
時を経て、彼はそれが少年時代の初恋の相手だったのだと気づき、苦笑するのです。
どこで生まれたか、どんな環境で育ったか……などは問わず、
ただ、初めて恋した相手がロックミュージックなのだと、自分を解き放ったのでした。

そして、2015年春、前作から10年後に発表されることになった、
ニューアルバム『Journey of a Songwriter 〜 旅するソングライター』は、
ロックミュージックというカテゴリーにとらわれることなく、
音楽的なジャンルの壁を取り払って、
少年の頃から愛し続けてきた様々な音楽を自由に奏でています。
そこには、ドゥワップ、R&B、フォークソング、ロックミュージック、クラシック、
ジャズ、ダンスミュージックと様々な音楽を投影した楽曲が並んでいます。
それら様々なジャンルの音楽はシンガーの歌声によって統一され、調和しています。
そのサウンドは最先端の録音機材と技術によってレコーディングされ、
21世紀の今現在のサウンドでリスナーに届けられることになります。

 様々なジャンルの音楽で構成されていることは、「マグノリアの小径」「五月の絵画」「永遠のワルツ」などのタイトルからも想像できるかもしれない。浜田省吾はこうも言っている。

「えっ、こんなタイプの曲もあるんですか!?」というようなものがあるよ(笑)

 自分の初恋の相手を50代になってから発見し、ロックンロールというその相手にいわば原点回帰した前作『My First Love』。“初恋”に関しては、今回のアルバムの制作中に非常に興味深い出来事があったという。それについては各曲の解説などで改めて触れるとして、その前に2005年から現在に至るこの10年の浜田省吾の創作活動について記しておきたい。
 『Journey of a Songwriter 〜 旅するソングライター』のサウンドプロデューサー水谷公生も「この10年があったから今があるんだね」と語っているように、じつは様々な創作活動を行っていた濃厚なこの10年。

 まず、『My First Love』完成時の言葉。

「アルバムの評価というのは時間が経たないとわからないんだけど、ひょっとしたらこれまでで一番優れたアルバムになるかも知れない。でも、考えてみれば当たり前なんだよね。前のアルバムから3年くらい経ってるでしょう。それよりいいアルバムを作らないとおかしいよね」

 『My First Love』が浜田省吾の最高傑作になったかどうかは、リスナーそれぞれの判断に任せるとしても、発表後に行われたツアー「ON THE ROAD 2005“My First Love”」はもちろん、「ON THE ROAD 2006-2007“My First Love is Rock 'n' Roll”」でも「ON THE ROAD 2011“The Last Weekend”」でも、『My First Love』に収められた「光と影の季節」や「I am a Father」が、コンサートでもっとも盛り上がる曲のひとつとして観客に歓迎されていた事実を、熱心なリスナーならよく知っているだろう。
 70年代のソロデビュー作品「路地裏の少年」や80年代の代表作「J.Boy」「MONEY」、90年代の「詩人の鐘」「恋は魔法さ」などと同様、会場がもっとも熱くなる曲のひとつが最新作であるというのは、30年以上のキャリアを重ねたソングライター/パフォーマーにとって、とても幸福な状況と言えるだろう。もちろん、それはリスナーにとっても。

 『My First Love』と同時期にスタートしたのは、水谷公生、作詞を担当する春嵐(のちに“小川糸”として著した『食堂かたつむり』がベストセラーとなる)とのプロジェクト、Fairlifeだ。浜田省吾は基本的に作曲家およびバッキングボーカリストに徹するという、異色の企画といえる音楽ユニット。岡野昭仁(ポルノグラフィティ)、奥田民生、CHEMISTRY、曽我部恵一らに加え、古内東子、chieなど個性的な女性ボーカル陣が浜田省吾の書き下ろし曲を歌ったアルバムについて(全3作、1枚目の『Have a nice life』は2004年発表)、浜田本人はこう語っている。

 「最近、スタジオに行く前に1時間くらい歩くことを日課にしているんです。そのときにヘッドホンで聴く音楽がFairlifeのアルバム。いつもは自分のアルバムを完成後に何度も聴くことはないんだけど(笑)、これは天気のいい朝に散歩しながら聴くと、本当に気持ちがいい」

 Fairlifeについては、浜田自身がメインボーカルをとる数少ない歌のひとつであり、浜田省吾楽曲の中でも指折りの傑作「砂の祈り」についても記しておきたい。メキシコの海岸線を車で走っているときに浮かんだというメロディーはおだやかだが、春嵐と浜田省吾「ふたりの詞が2行ずつ交互に出てくる感じ」という歌詞の背景には、イラク戦争での自衛隊派兵があった。紛争のある地帯に赴いた大切な人を思う家族の視点で歌われるこの歌は、2015年の今、さらにリアリティーを持って、優しく切なくそして強く聴く者の心に響くのではないだろうか。

 時代や社会との接点を強く持った歌について、浜田本人は「“こうあってほしい”という硬質な祈りのようなもの」と語る。ソングライターとしてのそうした側面を表す作品としては、2010年のDVD『僕と彼女と週末に』、CD『The Best of Shogo Hamada vol.3 The Last Weekend』も、この10年での特筆すべき成果だろう。

 「ソングライターとして自分自身が優れていると思える歌と、ステージで歌ってきてリスナーに愛されていると感じる曲、リスナーに育てられてきたと思われる歌、そんなリスナーとの接点を感じられる歌を探しながら選曲」「ミュージシャンとしてのエゴで過去の作品をリメイクしているわけではなく、全部のオリジナルアルバムがレコードショップに並ぶ状況ではない最近の音楽の流通システムの中で、これからのリスナーにパッケージとして自分の作品を残していくために作ったアルバム」

 そう本人が語る“The Best of Shogo Hamada”シリーズの完結編。特にDVDは、たとえば冒頭3曲「THE THEME OF FATHER'S SON ―遙かなる我家」「桜 (Instrumental)」「RISIG SUN ―風の勲章 (Acoustic Version 2010)」の15分以上にわたり、画面には浜田省吾の姿は一切映らず、描かれるのは膨大な歴史映像で編集された幕末から第二次世界大戦終戦までの日本という、明確なテーマを持った冒険的な作品だ。
 テキストとして付けられた本文96ページの冊子には、幕末以降の日本の歴史や世界との関係が、曲ごとに“桜 戦争の時代[明治・大正・昭和]”“詩人の鐘 壁は崩れ、溝は深まり[1990年代]”などと章立てされ、ていねいに解説されている。筆者は池上彰。

「作品の内容を短い言葉で表現するなら“なぜ俺達は今、こういう状況でここにいるのか”。それは今まで自分が作ってきた音楽の中でいつもテーマとしてあったもので、映像やテキストを含めて、そういうものを描けたらいいなと思った」

「自分自身の人生も、偶然だけど52年というサンフランシスコ講和条約が発効された年、つまり本当の意味で戦争が終わったという年に生まれて、さらに偶然『J.Boy』という歌を作って、戦前の父の世代と戦後の自分の世代のことを歌ったりしていて。そうしたいろいろなことが結びついた作品なんだよね」

 そして、そのCD、DVDの作品名を冠して出るツアーの直前、2011年3月11日に起きた東日本大震災。
 多くのツアーが延期され、エンターテインメントについての自粛ムードも強くただよう中、直観的に「やらなきゃいけない」と思い予定通り4月16日にスタートした「ON THE ROAD 2011“The Last Weekend”」ツアー。
 『小説すばる』2015年2月号で、作家である重松清のインタビューに答え「自分達には二度の転換期があった気がする」と語った浜田。ひとつは2001年9月11日の世界同時多発テロ、もうひとつが東日本大震災。

「今もまだ血が止まっていなくて、血を流しながら日常を生きているという感覚がすごくします」
「東日本大震災から3年経った2014年になって、やっとそのことについて歌が書けるようになりました。直接そのことを歌っていなくても、ある意味では全てのバックグラウンドにそのことがあります」

 意外なことに、1993年の『その永遠の一秒に ~The moment of the moment』に収められた「裸の王達」以降、前述のような“硬質な祈り”を歌う曲を、Fairlife「砂の祈り」を除いては発表していなかった浜田省吾。もちろん、ハッピーなラブソングにもそうした祈りの気持ちが込められているのだと思うが、今の世界について浜田省吾がどんな接点を持った歌をうたってくれるのか、それを聴きたいと熱望していたリスナーも少なくないだろう。『Journey of a Songwriter 〜 旅するソングライター』は、そんな期待にも十分に応えてくれるアルバムだ。

 70年代の雑誌に載った、ある海外の大物アーティストのツアーを描いた映画を観た評論家の文章を思い出す。曰く“かれらのまわりから、動いている現実が、世界が少しずつ隔離されていっているような雰囲気”。長いキャリアを積み、評価も得た表現者には、ときに浮き世離れした、あるいは孤高のとでもいった境地を感じさせるタイプも多く、それはそれでひとつの到達点ではあるだろう。しかし、浜田省吾の『Journey of a Songwriter 〜 旅するソングライター』は明らかに、われわれのまわりで動いている現実や世界の中に、われわれのまわりで動いている現実や世界とともにある。

 そして、『My First Love』完成時の本人発言「ひょっとしたらこれまでで一番優れたアルバムになるかも知れない。でも、考えてみれば当たり前なんだよね。前のアルバムから3年くらい経ってるでしょう。それよりいいアルバムを作らないとおかしいよね」にしたがえば、前回のアルバムから10年経っている今回の作品は、とんでもない超最高傑作ということになるのか。
 その全容は、また次回。最後に、オリジナル・ニュー・アルバムを完成させたばかりの浜田省吾本人のおだやかな感想を。

「かつてリリースしたアルバムのうち、どのアルバムが優れているかとか、どれが好きかということはリスナーの方達に任せるとして、自分としては、まず新しい歌を書くことが出来て、アルバムを完成させることが出来たということが素直に嬉しい。そして、かつて発表したアルバムと比べても遜色ないアルバムを作ることが出来たことも嬉しい」